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Chef&Okami_Hew



甘味について

和食、特に「家庭料理」には、甘い味付けの料理がいくつかあります。煮魚、すき焼き、肉じゃが、ブリ大根等、砂糖や味醂などで甘味を加えます。色々なレシピを試してみて、最終的に自分が美味しい、と思った味に落ち着きます。私の味付けは、少々甘味が足りない、という方もいらっしゃると思います。一方で、甘味を抑えた味が好きだ、とおっしゃるお客様もいらっしゃいます。好きな味は、人それぞれです。

甘味に対する味覚の世代による違い

「家庭料理」の味は、それぞれの家庭によっても異なりますが、時代によっても変わる可能性があります。東京ガスが甘味についてのブラインドテストを2011年に実施しました。
(株式会社マガジンハウス発行の雑誌「Tarzan」 2013年4/11号 p.92)
対象:510人の高校生および大学生。
60代、70代の高齢者。
糖度0.3%の甘味水溶液を飲み、甘さを認識できるかどうかを調べた。
結果:
甘みを感じた人
高校生        33%
大学生        48%
高齢者        77%
この結果を見ると、年齢が高い程甘味をより敏感に感じている、ということがわかります。即ち若い人にとって丁度良いと思う味付けは、高齢者にとっては甘過ぎるということになります。私は、上記のブラインドテストの対象者の中では、高齢者の範疇です。
私の提供する料理は、私が味付けをしますので、今の若い人には少々味が薄い、もしくは甘味が足りない可能性が高いと言えます。市販のドレッシング、調味料、総菜の味付け等は、私には少々甘味が強すぎると感ずることがよくあります。甘味に対する嗜好の傾向は時代とともに変化しつつある、と言えるでしょう。
ある日本料理の店で食事をした時に、そこの店主は、砂糖や味醂を一切使わない、とおっしゃっていました。評判の良いお店で、どの料理も大変美味しかったです。料理の種類にもよりますけれど、甘味がなくても充分美味しい料理は作れる、ということですね。

砂糖について

最近は、砂糖を初めとした糖質を制限することが、健康を保つ上で重要だと考えられています。特に、先進国では、肥満や糖尿病に代表される生活習慣病の原因として糖質の摂りすぎが問題になっています。2016年に、WHO(世界保険機構)は、砂糖入り飲料への課税は肥満や糖尿病、虫歯などの健康問題を減らすことに効果があるとし、同飲料への課税を導入するよう世界各国へ呼びかけました。イギリスでは、2016年にSugar Taxが課せられることが決まり、2018年4月から課税がスタートしました。特に子供の肥満が問題になっているということです。

人工甘味料について

砂糖の代わりに人工甘味料(スクラロース、アスパルテーム、サッカリン等)を使った食品や飲料があり、その多くは、ダイエットや糖尿病対策であろうと思われます。糖尿病に対しては、医師の指導により糖質制限のために、人工甘味料による食事を勧める場合もありますから、一定の効果は期待できるでしょう。但し、最近の研究によると、砂糖の代わりに人工甘味料を摂った場合でも血糖値が上がることがある、ということが言われていますので、必ずしも安心は出来ません。(当ブログ「栄養のこと(その3)」に紹介した下記の書籍のp.256~257参照。)
「ダイエットの科学 「これを食べれば健康になる」のウソを暴く」
ティム・スペクター著 白揚社(2017年4月23日 第一版 第一刷)
原著 THE DIET MYTH: The Real Science Behind What We Eat(Weidenfeld & Nicolson 2015)
血糖値の上昇は、腸内細菌も関与している、ということです。引用されている研究は2014年のNatureに発表された論文です。上記の書籍のp.257には、次のように記載されています。
「人工甘味料に実際にどの程度のリスクがあるのか、誰もが影響を受けやすいのかというあたりは、まだよくわかっていない。しかし、いま紹介した腸内細菌の実験からはっきりわかることがある。それは、人工甘味料のような新しい「安全な化合物」を承認する立場にある政府の食品規制担当者はもちろん、私たちもまた、そうした化合物が従来の検査に合格した時点で、次は腸内細菌の機能を変化させる事によるリスクを、もっと真剣に考える必要があるということだ。」
ここに記載されているように、人工甘味料についての腸内細菌への影響は、まだよくわかっていない、というのが実情だろうと思います。現時点では、そういうことがあるかも知れない、と思ってしばらく情報を追いかけてみるのが良いのではと考えます。

甘いものが好きな人

ある特別養護老人ホームの入居者の話が、新聞に載っていました。(朝日新聞 2018年11月4日付「それぞれの最終楽章・特養で(4)」)
『・・・
脳出血などの後遺症で右半身のまひがあり、車いす生活でした。糖尿病もあったのですが、食べることが大好きでした。職員の制止にもかかわらず、甘い物をたくさん食べて、体調を崩されることもありました。それでも「自分で食べる物や量を決めるんだ!」「好きなものを食べられないなら、ほかの施設に行く!」と言って、職員やご家族と日々闘っていました。
15年1月、食欲不振をきっかけに病院で検査したところ、肝臓がんとわかりました。本人とご家族の希望で、施設に戻り看取(みと)りケアに移ることになりました。がんで体は確実に弱り、施設職員の介助がないとできないことも増えてきました。それでも何事も自分で物事を決めるというスタンスは変わりませんでした。
驚いたのは、亡くなる数日前に部屋にお邪魔したとき、大福を食べていたことです。口の周りを真っ白にして、真っ赤な顔でのどに詰まらせそうになりながら食べていました。職員としては注意すべきですが、「さすが」と笑ってしまいました
・・・』
糖尿病の人に対しては、医者、世話をする人、家族等は甘いものを制限するよう説得するのが普通です。通常であれば、それに従う人が多いでしょう。上記の砂糖の話にも書きましたように、決して甘いものを好きなだけ食べることをお勧めする訳ではありませんけれど、この記事に書かれている内容を読むと、こういう生き方の方が、時と場合によってはQOL(Quality of life:生活の質)が高いと言えるかも知れない、と思います。
私は、料理の甘過ぎるのは苦手ですが、スイーツなどの甘いものは好きです。これからも食べ続けると思いますが、程々にしようと思っています。