食べ物の好き嫌いは、誰にでもあると思いますが、家庭料理は普通の人にとっては毎日食べるものなので、好きなものだけを食べていると、栄養的に偏る可能性が高くなります。以前、私が家族3人(嫁さん、息子と私)のために夕食を作っていた頃、毎日の献立をノートに記録していたことがあります。簡単なメモですが、5~6年続けました。動物性タンパク質(肉、魚)や植物性タンパク質(豆腐、納豆など大豆製品)と野菜を適当に組み合わせてなるべく偏らないように気をつけていました。気をつけると言っても、管理栄養士がやるように厳密に考えたわけではありません。味の好みも異なっていて、塩加減については、息子と私はほぼ同じ、嫁さんはそれより少し薄味が好みです。
個人差
栄養の最適なバランスというのは、個人個人によって異なるので、ある人にとって最適なものが別の人にはふさわしくない場合があります。万人に向いたものはありません。肉体的な労働に従事する人やスポーツで体を使う場合は、エネルギーのもとになる糖質が普通より多く必要でしょう。それとは逆に、体質的に糖質を制限した方が良い人もいます。
個人差は、色々の要因で出現しますが、DNAの塩基配列が一つ異なるSNP(single nucleotide polymorphism)、一塩基多型、と言う遺伝子レベルの差が発現する場合があります。「香川靖雄教授のやさしい栄養学 第2版」(女子栄養大学出版部)のp.167にアルコールに関するSNPの例が、記載されています。
「・・・わずか杯1杯の飲酒で酔う人にとっては、アルコールは生命の危険を伴う毒物です。しかし、日本画家の横山大観は、90年間の生涯、そのエネルギーの大半を日本酒から得ていました。普段はごはんを食べませんが、朝、昼、晩で日本酒(1ml=1kcal)を合計一升飲んでいましたから、お酒だけで1800kcalを得られるのです。
この個人差はアルデヒド脱水素酵素遺伝子のSNPによる場合が多いのです。アルコールは、アルコール脱水素酵素によってまず有害なアセトアルデヒドを生じます。これを分解するアルデヒド脱水素酵素(ALD2)には多型があって、1型(ALD2-1)の人は酵素の活性が強いので酒に強く、2型(ALD2-2)の人は酵素の活性が弱いので酒に弱いのです。
・・・SNPは、両親(父/母)から遺伝するので、1型/1型(ALD2-1/1、ホモ)、2型/2型(ALD2-2/2、ホモ)の他に1型/2型(ALD2-1/2、ヘテロ)の3種があり、ヘテロは2つのホモの中間になります。」
この例で言うと、私自身は、恐らくヘテロのタイプだと思います。嫁さんは私より酒は強いですが、妹さんが全く飲めないタイプなのでやはりヘテロのタイプでしょう。横山大観は、1型/1型ですね。私には、横山大観の様な食生活は出来ません。
家庭料理のこと
筋肉をつけるためにはタンパク質も十分摂る必要があります。一方で腎臓に疾患がある人は、タンパク質を摂りすぎないように気をつけなければいけない場合もあります。味の好き嫌い、体質、肉体労働もしくは頭脳労働等の活動内容、年齢、性別、持病等によって好ましい食事は変わります。私自身の場合は、余り腸が丈夫ではないように感じます。肉よりは魚、そしてなるべく野菜を多く摂る方が体調が良いようです。自分で食べるものに関しては、そういったことを考えて食材を選ぶことが多いですね。
理想の家庭料理というのは、個人差を考慮した上での毎日の食事ということになるのではないでしょうか。